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even if(トリチア)【3】

※モブの女の子の一人語り
※千秋×モブ(♀)表現があります
※キャラ崩壊。不誠実でクズな千秋がいます。
※上記を見てちょっと・・・と思った場合は見ないほうがよいです
※「それでも見る!」という場合のみどうぞ
 ある日の夜中、家で次に提出するプロットを練っていると、携帯電話が震え始めた。私には友達もいないので、電話は二人のボスか私の担当の三人のうちの誰かくらいからしか来ない。今日は、私の愛するあの男からだった。珍しい、というよりもはじめての電話に私は胸を弾ませた。
「もしもし?」
 ざらざらした音が聞えて、通話が始まった。
『……もしもし』
 先生の声は、かすれていた。電話越しだとこんな声なんだ、と私は意味もなくドキドキしてしまった。
「仕事の話ですか?それとも、プライベート?」
 私は後者であることを強く願いながら、よそ行きの声を出した。先生ははあ、とため息をこぼすと、プライベート、と呟いた。私はその瞬間に浮かれた。愛する男と、電話している。セックス以外では初めて情緒的な、恋人みたいな交流をもてて、私はバカみたいに喜んだ。
「それで、なあに?いい話?」
 私の声は、蜜づけのケーキみたいなものだった。甘ったるくて、胸やけがしそうな。町でこんな声を出す女が他にいたら、私は思い切り軽蔑するだろう。しかし、今日その声を出しているのは私なので、私はその事実を無視した。
『……ごめん、もう、ぁっ……』
 先生は途切れ途切れにそう言うと、はあ、と大きく息をついた。何かに耐えるように。私は面食らってしまい、え?え?と喉を震わせるようにして音を出した。
「え?まって?なに?え?」
『あっ、やめて……っ、やっ、あっ……、あっ』
 彼の声が震えて、どんどんトーンが高くなっていく。一体何を謝られているのか、想像もつかない。
『ごめっ、な、さ……っ!あっ、だめ、だめ…ッ……!!』
「ねえ先生?大丈夫?ねえ?」
 切羽詰った高い声の奥で、ぱんっ、とかぱしっ、とか乾いた音がした。先生の息は荒くて、声なんてほとんどすすり泣いているみたいだった。どこかで聞いたことがある声、と思い、次の瞬間私は立ち上がって、家を飛び出していた。終電ももう越えた時間だったので、予算が許す限りはタクシーで、それ以降は走った。つっかけサンダルで、部屋着で、夜道を転がるようにして、不恰好に走った。

 先生のマンションの前で、部屋番号を何回押してもオートロックのドアは開かなかった。私は合鍵を貰っていないので上に上がることもできず、エントランスの前でひたすらうろうろしていた。晴れた日だったけれど、夜を明かす頃には髪も夜露でしっとりしていた。ぺらぺらのパーカーとショートパンツという出で立ちのせいか、朝には私はほとんど凍えそうになっていた。
 朝の七時を回ったあたりから、エントランスから人がぽつぽつ出てき始めていた。みんな私に気づけばぎょっとした顔をしたが、大半は気づいていない様子だった。八時前になると、チャコールグレイのスーツを着た羽鳥がエントランスをくぐり私の前にやって来た。
「やっぱりいたか」
「……先生は」
 羽鳥は私の腕を引っつかむと、合鍵を使っていとも簡単にエントランスをくぐり、もと来た道を戻った。そして、私を先生の家に押し込んだ。
「風邪を引かれても困るから、風呂を使え。それから仮眠して帰れ」
「……先生は、無事なの」
 玄関で木偶のように立ち尽くしている私に、羽鳥は盛大に顔をしかめた。それから、仕方ないと言いたげにため息をこぼして、
「ついてこい」
 とぼそりと言った。つれてこられたのは先生の寝室で、私とて入ったことのある場所だったけれど、ドアが開いた瞬間には項の毛がちりちり逆立つのを感じた。こもった空気、饐えた臭気、湿った気配に満ちた寝室は、まるで知らない空間だった。
 キングサイズのベッドの中央、先生は裸のまま眠っていた。下半身こそブランケットで隠れていたけれど、痩せた体中には拘束された跡やうっ血、歯型が散っていた。
「……先生」
 ベッドサイドに駆け寄り、声をかけても、先生は人形のように眠り続けていた。
「……先生、先生」
 肩を揺さぶっても、先生は眉さえひそめず眠り続ける。私はぼたぼた涙を流しながら、何度も先生を呼んだ。
「……寝ているんだ。放って置いてやれ」
「……あんたが、先生をこうしたの?」
 傷ついた先生の体をじっとみつめながら、私は羽鳥に問うた。羽鳥はため息をつくと、澄ました声で
「だから?」
 と呟いた。もし私が153センチ42キロの貧弱な女ではなかったら、多分羽鳥を殴り殺したと思う。それくらい、彼の「だから?」は不快だった。
「先生、ねえ、起きて。先生のことが好き、私が守るから、ねえ先生、起きて。私を好きになって。お願い、先生お願い」
 私は先生の肩にすがりつき、渾身の力をこめて愛を告白した。寝ているはずの先生の、両のまぶたからつうっと涙が伝った。だけど、先生は相変わらず、眉一つ動かさず、唇一つ震わさずにいた。私は先生の心の優しさを憎み、彼のずるさを恨み、そして彼の誠実さを呪った。私は、負けたのだ。
「……仮眠してから帰ってもいいですか」
 無力な敗者の私は、振り向いて羽鳥にそう尋ねた。家主でも何でもないくせに、羽鳥は尊大に頷き、あまつさえ
「仮眠室のベッドだと寝にくいようなら、ここで寝ればいい」
 と優しげな声を出した。嬲り者にされた気分だった。しかし、私はもうぐしゃぐしゃのよれよれだったので、ぺこりと頭を下げると精液臭いベッドにもぐりこみ、湿ったブランケットを半分貰って目を閉じた。
「鍵はポストに入れておいてくれ」
 という羽鳥の声は、余裕に満ちていた。
 眠る男の背中をみながら、私は唇を噛み締めた。殆ど泣いてしまいそうだった。
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Author: lea
遅まきながらBLデビューしました。
BLもノマカプもにょたも大好き。
どれもよくかんでおいしくいただきます。

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